ほっぺたの向こう

食にまつわるあれこれ.

食旅1 お米タルト Reistörtchen ライストルトヒェンの行方


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日本で生まれ育ったので、日本で食べるお米がいちばん美味しいと思う。きっとトルコで生まれ育てばトルコのお米がいちばんだと思っただろうし、イタリアで育てばイタリアのお米こそ美味しいと思っただろう。

 

新鮮さが勝負の野菜は、輸送に頼らずその土地のものを食べたほうが美味しいと思っている。隣町にあるお気に入りの韓国料理店では、韓国野菜を空輸してビビンバを作っていない。たとえばプルコギだと、味噌や辛子など調味料は韓国のものだけれど、具材には、牛肉やズッキーニ、人参、マッシュルームを使って作っている。近所のスーパーで手に入る肉と野菜だ。それが、美味しい。

 

米はどうか。

 

野菜と違って長く保存が効くので日本産を食べたいけれど、輸送費がかかりかなり高い。欧州では、イタリアで作られているコシヒカリ、「ゆめにしき」がある。ドイツに住んでいる日本人には人気があるそうで、友人家族も「ゆめにしき」派なので、わが家でも一度買ってみた。家族は口を揃えて美味しいと言ったものの、やっぱり値段が問題で、少しお高いのが難点だった。これは別ルートがよいという話になって、『米探しの旅』が始まった。トルコショップやイタリアショップ、スーパーにドラッグストア、方々まわってたどり着いたのが、赤い文字の印字されているトルコ米。これは日本米にかなり近くて、毎日の夕食に出しても美味しく食べられる。おにぎりが作れる、ほどよい粘りがあるのも嬉しい。ところが、やっと好きな米を見つけたと思った矢先に、行きつけのトルコショップのオーナーが変わって、お気に入りのトルコ米を置かなくなってしまった。それで、今もまだ理想のお米を探している。

 

理想のお米というのは、私にとっては、あの甘みだ。

 

お砂糖とも違う、ほんのりとした自然な甘み。粘りがあると、よりいい。そのままの味と食感ってとっても大切だと思うのだ。こちらのお米は、風味が独自でぱさぱさしているものも多い。そういうお米はチャーハンとかリゾットには向いているけれど、茶碗に盛るごはんとしては、甘みと粘りがたりない。

 

その土地で育てた米には、その土地のレシピと材料が合う。だから、イタリアの米がリゾットに合うのは当然なのだろう。もう無理かなあと諦めていたある日、贔屓のパン屋さんで、「うどん定食」的タルトに出会った。「うどん定食」をご存知だろうか。うどんにお茶碗一杯のごはんがついている、アレだ。主食しかないやんとツッコミたくなるモノだけど、大阪の食堂では一般的なメニュー。それと似たようなモノがパン屋さんのガラスケースに並んでいたのである。小麦粉のタルト生地に、ライスをのせて焼き上げた、その名も Reistörtchen ライストルトヒェン、小さなお米のタルト。ドイツではお米は甘くしてお菓子に使う。炭水化物ばかりの「うどん定食」は苦手だったし、砂糖を加えたお米スイーツも好きじゃなかったけれど、お米に飢えていたからか、思わず手が出た。

 

アタリだった。とても美味しい。米には砂糖が入っていなかった。お気に入りのトルコ米を使ってるかはわからない。詳しい製造工程もわからない。けれど、米の自然な甘みと粘りがあって、小麦粉の生地によく合っている。一口食べるたびに、日本で米を食べているような、ドイツでタルトを頬張っているような、不思議な、落ち着いた気持ちになった。すっかりハマってしまって、店に行くたびに注文していたら、ある日、突然姿を消した。

 

「もうないんですか。」と聞くと、「少なくとも今年は出さないの。」と返ってきた。ないと聞くと余計に恋しい。あのライストルトヒェン、どこに行ってしまったのだろう。来年のカムバックを願うばかり。