とある街の朝の市場で見つけた、日本ではほとんど幻のような真っ青なチーズ。 一目見た時になぜか飛行石*1を思い浮かべたので飛行石のような青いチーズって言ってみたけれど、あれはもっと深い青なので、飛行石と言うよりサファイアかトルコ石か。いずれにしても宝石みたいに美しい。札を見るとラベンダーペーストとある。ラベンダーの青なのだと初めて知った。
このチーズを撮影したのは2019年、コロナ前のこと。週末に街に立つドイツのマルクト(市場)で売られている。こうした綺麗色チーズは、オランダのチーズ会社Veldfuyzen Kaas社のバジロンが有名だ。ゴーダチーズにスパイスやハーブを混ぜ込んである。(バジロンにはワサビ味もある……!)ただ、あとで調べると、バジロンのラベンダーチーズはもう少し紫味があって*2、これは別の商品だった。
これはトマトとバジルとパプリカのもので、landanaというオランダの会社のチーズ*3。深い朱色をしている。オランダは隣国なので、ドイツに入ってきやすいのだなあと。
チーズはメソポタミア文明の地で生まれたと言われている。アラビアの商人が動物の胃袋で作った水筒でミルクを飲もうとしたら、ミルクが固まっていた。チーズの始まりの有名な説だ。その後チーズはギリシアへ渡りフェタチーズが生まれ、ローマ帝国もチーズ作りを覚えて、ヨーロッパに広がっていく。ローマ帝国の影響をあまり受けなかったドイツは、チーズの歴史は浅いものの、今は日常の中でなくてはならない食べ物になっている。
ゴーダチーズは13世紀にオランダのゴーダ村で生まれたチーズで、17世紀、江戸時代の鎖国下の日本にもこのチーズが伝わり、お手本となった。熟成の若いゴーダチーズと長期熟成のゴーダチーズがあって、18か月熟成させるウェストランド社のOld Amsterdamというチーズは、オランダ人宇宙飛行士のリクエストで、宇宙にも持ち込まれて食べられたのだとか。
でもたとえばラベンダーのチーズを、パンの上に乗っけてトースターで焼いて溶かしたとしたら…!たぶんスライムのようなカタマリが、じっと私を見つめていることになる。口に運ぶ勇気はあるか。
ひと昔前に青いカレーライスが話題になったことがあって、青は食欲の出ない色だとも聞いたけど、なるほど目の当たりにしてみると確かになかなか食べれなかった。試食できるようにタッパーにチーズが切ってあるのだから、食べればよかったんだ…。美味しいと聞くこのチーズ、後になればなるほど食べたくなって後悔が深くなる。次にこのマルクト(市場)に行ったときにはきっとチャレンジしよう。
※2019年6月の記事を加筆修正。
参考文献
『チーズの図鑑』本間るみ子
『世界のチーズ図鑑ミニ』マイナビ文庫,NPO法人チーズプロフェッショナル協会