もぐもぐと独逸

ならでは食と独逸物語。

007 ポルトガル美食記 before corona ー七月のロカ岬と鱈のグラタン

風が強く吹いていた。私たちは今バスの二階席にいる。

 

旅も終わりに近づいていた。明日朝には空港に向かうので、ポルトガルを楽しめるのは今日までだった。せっかくこの国に来たのだからユーラシア大陸最西端の岬、ロカ岬には行かねばと、バスに乗り込んでいた。

 

「やっぱりさ、新鮮な空気が吸えるところがいいよ。」

 

ナツさんが二階席に上がって言った。「酔わないほうがいいよね、二階席でいいか。」と、私とコナツも後に続く。二階席は天井がない。ポルトガルの陽ざしは強烈なのだからあまり暑いときには一階席に降りよう。そう考えながら、私とコナツは着席するとすぐに日焼け止めを塗った。

 

ほどなくしてバスが動いた。バスは山の中に入って行く。よく揺れた。速度も日本のバスに比べると早く、運転もけっして穏かではない。

 

何よりも堪えたのが、天気と気温だった。太陽光など何も心配することはなかったのだ。ときどき青空が顔をのぞかせるものの、だいたいは雲が重苦しくたちこめている。雨が降っているわけではないけれど、今にも降りそうだ。期待していた「太陽の下で思い切り新鮮な空気を吸う(ハートあるいは音符)」というものは、ただの願望に変わり、ひんやりとした風が容赦なく私たちに襲いかかった。

 

「寒い。おなか痛い。」

 

「りっちゃん、またなの!?」

 

ナツさんが呆れ声を出した。私からすれば、その呆れ声は冷たい声である。コナツはよい。もっていた抱っこ紐で柔らかく体を包んでいるし、今日は長袖で寒い様子はない。上着もある。そして、この風のなか、すやすやと眠っている。私は半袖で上着がない。目はぱっちりと覚めている。防寒着らしきものは、「二人で使えばいっか(音符)」と軽い気持ちで持ってきた薄い上着一枚である。自分の無計画さと浅はかさに心底腹が立ったものの、今はこの場をしのがなければならない。貴重な一枚の上着をナツさんが着ていたが、私にまわしてくれた。瞬時に冷たい夫からとても温かい夫に変換される。風はますます強くなり、運転はますますダイナミックになり、冷たいやら寒いやら、昨日までたらふく食べたものが胃の中でぐるぐる回っているやらで、もう限界だ! と思ったときに、ようやくロカ岬の最寄りのバス停に到着した。鏡がなかったので確認してないけれど、私は青い顔をしていたに違いない。ナツさんはどちらかといえば平気という顔をしていた。強靭な人である。上着をまわしてくれたことには、今でもとても感謝している。

 

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ロカ岬に着くと海風が吹いていた。雄大な海。これがユーラシア大陸の最西端。雲がずっしり水面に乗っかっていたので、水平線はぼやけて見えた。霧も濃い。ぶらぶらと歩き海を楽しみながら、近くの食堂に向かった。

 

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食堂で飲んだのは温かいミルクティーだった。体が芯から温まっていく。窓の外に目をやると、今頃になって晴れてきていた。太陽の光が雲間から海面に射しこんだ様子はとても美しかった。

 

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店を出てもう一度散策していると、瑠璃色の海を見ることができた。

 

 

帰りにもバスを使ったけれど、私にはあまり記憶がない。なぜかまた二階席に乗って、行きと同じように寒い思いをしたからかもしれないし、再度の腹痛を思い出したくないからかもしれない。それでも無事にカスカイスに帰り着いた。

 

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夕ごはんは、とてもお洒落なレストランで食べた。歩いていてたまたま見つけたので予約せずに店に入ったものの、隅の席を確保してもらえたのは幸運だった。ろうそくの火が美しくゆらめくなかで食べた鱈のグラタンが忘れられない。ホワイトクリームの中に鱈のほぐし身がたっぷり混ぜこんであって、熱々でボリューム満点。おなかをぱんぱんに膨らませながら、なんとか食べ切った。

  

この無理がいけなかったのである。幸せな気分でホテルに帰りついたものの、部屋に入ったとたん、私はついにベッドに倒れこんだ。食べ過ぎで胃腸がおかしくなったのである。

 

ポルトガルは暑さと冷えと食べ過ぎの旅だった。そして美味しくて可愛くて深い歴史を感じる国だった。次にポルトガルに行くときには、暑さと冷えと食べ過ぎに注意しつつ、下調べをばっちりして、治安のよい美味しいポルトガルを楽しみたいと思っている。